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-2026.2.19-
「高断熱住宅は本当に”今すべて”必要か?──高性能を押し付けない“性能を成長させる家”という選択」
価格の問題ではなく、構造の問題ではないか
旧暦の新年前後から、工務店さんからの相談が相次ぎました。
内容はいずれも「自社の営業をどう進めるか」という問いです。
人口減少、工事費の高騰、そして住宅取得者の価格感覚との乖離。
供給側と需要側の間に、大きな溝が生まれています。
しかしこの問題は、単なる経済問題なのでしょうか。
私は、四つの層でズレが起きているように感じています。
| 層 | 供給側 | 需要側 |
|---|---|---|
| 経済 | 原価上昇 | 支払い不安 |
| 性能 | 高性能化 | 違いがわからない |
| 時間 | 長寿命設計 | 将来が読めない |
| 感情 | 誇り | 恐れ |
こうして俯瞰すると、根っこにあるのは
「未来の不透明さ」ではないかと思えてきます。
国の政策による断熱性能引き上げは、確かに金額上昇圧力を生みます。
しかし同時に、将来への安心をつくるはずの性能が
「今の不安」を強めてしまっている。
平たく言えば、
未来が見えないから、価格が重く感じる。
ここに本質があるように思います。
性能を“翻訳”するという仕事
需要側には、性能向上の価値が十分に伝わっていない。
だからこそ、価値を翻訳する必要があります。
高性能を「正解」として押し付けるのではなく、
- 性能は成長できるという考え方
- 可変であるという視点
- 将来のための余白を設計するという思想
段階的な満足という道筋もあるはずです。
Nshouseという実験
自邸 Nshouse は20年前の設計です。
当時としては高断熱・パッシブデザインでしたが、
現在のFORMA基準から見れば性能は高くありません。
ただひとつ違ったのは、
「将来付加できる余白」を設計していたことです。
内窓の追加、薪ストーブの導入。
時間を味方につけながら、快適性を育ててきました。
当時、樹脂サッシのトリプルガラスは市場にはありましたが、
国産では普及しておらず、輸入品は高価で現実的ではありませんでした。
もし20年前にフルスペックを選んでいれば良かったのか。
それとも、今の成熟した技術価格を待つ道もあったのか。
答えは一つではありません。
最初に満足するか、段階的に満足するか
建築時の工事価格と、将来の技術普及価格。
住まい手の年齢と、これからの人生時間。
最初に最大満足を取るのか。
時間をかけて育てるのか。
どちらが正しいかではなく、
どちらがその人にとって自然か。
そこを見出す対話とディレクションが、
今、強く求められているのだと思います。
FORMAができること
工務店さんからの相談を通して感じたのは、
FORMAに求められているのは
「設計」そのものだけではなく、
- 価値を翻訳する力
- 構造を俯瞰する視点
- 段階的な未来設計の提案
なのではないか、ということです。
性能を上げることが目的ではなく、
安心を設計すること。
そのためのコミュニケーションと、
そのための建築。
それが今、私たちにできる役割なのかもしれません。
補足
なお、誤解のないように申し添えると、
私は高性能住宅を否定しているわけではありません。(FORMAでは地域や各種の要求性能をを数値化する設計を行っています。)
断熱性能の向上やエネルギー負荷の低減は、
これからの社会において不可欠なテーマです。
ただ、その性能を
「一度に最大化すること」だけが正解ではないのではないか。
住まい手の年齢、資金計画、価値観、
そして時間の流れに応じて、
性能もまた育てていくことができる。
その道筋を設計することこそ、
今の時代に求められているのではないかと考えています。